『(新版)書く技術』の書評

『(新版)書く技術』(森脇逸男著)

表紙 タイトル

ここでは、森脇逸男氏によります『書く技術』のご紹介をします。

森脇氏は、読売新聞の一面コラム「編集手帳」を6年以上にわたり執筆されてきた文章のプロです。読売日本テレビ文化センター「マスコミ論文・作文セミナー」の監修もされています。

本書は、大学や専門学校、企業等の文章教育のテキストにも使用されており、文章術に関する基本が網羅的に記載されています。常に座右において利用したい内容となっています。

本書の章立ては次の通りです。

第1章:文章以前
第2章:書き始める
第3章:文章を整える
第4章:表現を磨く
第5章:達意の文章

 

『(新版)書く技術』の概要

第1章では、執筆に際しての心構えについて述べられます。ここでは、原稿用紙の使い方や横書きの注意点についても触れられています。例えば、横書きでは算用数字を使うことが多いわけですが、漢数字を使うべきケースもしばしばあることが指摘されています。

固有名詞(九州、五十五年体制など)やことわざ(人のうわさも七十五日など)の場合がそれにあたります。他に、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・と読むケースや、不定数(二、三人、数十日、十数億円など)にも漢数字が用いられます。

 

第2章では、執筆パターンとして、時系列に沿って書く方法や、結論を書いてから過去に遡る方法、起承転結や序論・本論・結論の形式で書く方法が紹介されています。

さらに、書き出しのパターンとして、即題法(解題法)や提言法(前置き法)、破題法について解説されています。

即題法というのは、題目(タイトル)を説明したり、定義を述べたりすることです。提言法とは、文章を書くことになった経緯を書いたり、読者への語りかけから始める手法です。破題法とは、主題とは関係がないような意外性のある書き出しをして読者を惹き付ける方法です。

その他、「である」止めと「です」止めに関する注意点として、それらを意味なく混用してはならないことや、混用が許される場合について述べられています。

さらに、体言止めについても述べられています。ちなみに、体言止めというのは、名詞や代名詞で止める手法です。例えば、「簡潔でスピード感あふれる体言止め。これを使いこなせば、あなたも一流ライターの仲間入り」と言う具合です。

 

第3章では、修飾語の使い方に始まって、「てにをは」の注意点、「は」と「が」の使い分け、助詞「に」「へ」「と」の正しい使い方等について、細かく解説されています。

例えば、「は」は既知の情報に対して用い、「が」は未知の情報に対して用いると指摘されています。

「私は作家です」という場合の「私」は、既に相手に知られた存在ですから「は」を使います。一方、「どちらの方が作家ですか?」と聞かれて、「彼が作家です」と答える場合、「彼」はまだ相手に知られていない存在なので、「が」を使うというわけです。

他に、慣用句における間違いやすい例がいくつか取り上げられています。それでは、次の文章の間違いがわかるでしょうか?

① 「準備も整い、いよいよ決戦の火ぶたが切って落とされました」

② 「彼に写真を取ってもらえば、結婚できるというジンクスがあります」

まず、①の場合ですが、「火ぶたを切る」というのは、火縄銃の点火用の皿を開けることを意味しています。従って、切って落としてしまうと、その火縄銃はもう使えなくなってしまいます。よって、「決戦の火ぶたが切られました」が正しい使い方となります。

一方、②の間違いは、ジンクスの使い方にあります。ジンクスというのは悪いことに使う言葉であって、良いことには使わないのです。ですから、「彼に写真を取ってもらえば、離婚するというジンクスがあります」なら問題はありません。

 

第4章では、表現を磨くためのヒントが述べられています。その基本は推敲にあります。難解な表現になっていないか、ひとりよがりの文章になっていないか、紋切り型の表現になっていないかなど、注意点がいくつかあります。

さらに、句読点の使い方や正しい敬語についても解説されています。

 

最終章では、達意の文章を書くための文章上達法がいくつか紹介されています。「三多」や「文章復活法」、「要約法」、「決定的瞬間法」などです。

「三多(さんた)」というのは、中国の文学者欧陽修が提唱したものです。三多とは、看多(かんた)、做多(さた)、商量多(しょうりょうた)の三つです。著者はそれぞれ次のように説明しています。

◆看多
手当たり次第に読むのではなく、自分が目標とする文章を選び出し、徹底的に、繰り返し読むことです。

◆做多
これはたくさん書くことを意味しますが、著者は毎日書くことを勧めています。新聞や雑誌への投書、懸賞論文や文学賞への応募を目標にすれば良いでしょう。

◆商量多
第三者の目で厳しく推敲することです。

文章復活法では、自分が目標とする作家の文章を選び出して、一旦、その要約を作成します。そして、その要約をもとに、前の文章を自分流に復活させます。そこで、もとの文章と自分の文章を見比べて、その違いから学ぶというのが文章復活法です。

要約法というのは、堅めの書物を選んで、それを丹念に読み込んで、短文に要約するという練習法で、社会学者の清水幾太郎氏が勧めた方法です。

決定的瞬間法というのは、音楽評論家の吉田秀和氏が用いた方法で、相撲を見て、その勝負における決定的瞬間を見抜き、それを正確に表現する練習です。これによって、正確さだけでなく、記述の急所をつかむことができるようになるといいます。

以上、ざっと見てきましたが、本書ではこうした文章術の基本が懇切丁寧に解説されていますので、一読されるだけでも得るところが多い内容となっています。