下読み(1)― “下読み”という仕事

公募文学賞における“下読み”という仕事

“下読み”という言葉をご存知でしょうか? 一般的には、台本の下読みをする、といった具合に用いる言葉ですが、ここでは公募文学賞に関して用いられる“下読み”について考えます。

つまり、これは公募文学賞の一次選考(時には二次選考)を担当する方々を指して呼ぶ業界用語なのです。応募作品に最初に接し、その運命を左右する立場にある方々といってよいでしょう。

そうした下読みの方々というのは、その文学賞を主催する出版社の担当者を始めとして、現職の編集者や元編集者といった方々、あるいは、まだそれほど名の知れていない作家や評論家といった方々から構成されています。時には、そうした方々と縁のある大学院生や小説好きの方々に下読みが依頼されることもあります。

こんなことを言うと、バイトなんかに原稿の良し悪しを判定されてはたまらないと、いぶかしがられるかもしれません。しかし、それほど心配する必要もないでしょう。

というのも、この段階では優秀な作品を選ぶというより、良くない作品を落とすということが目的ですので、それほど判断を誤るということは少ないからです。

それに、大部分の応募作品が小説やノンフィクションと呼べるレベルに達していないことも事実で、そうした観点からも問題は少ないというわけです。最終選考といったシビアな段階ならともかく、一次選考の段階で傑作が選に漏れるということはほぼないといって良いでしょう。

 

下読みの心証を害する応募例とは?

しかし、そうはいっても下読みも人間です。下読みの方々の心証を害することが得策でないことはいうまでもありません。では、どうした行為が下読みの方々の心証を害するのでしょうか?

案外、良かれと思ってやったことが裏目にでたり、蛇足だったりということはよくあるようです。下読み経験者たちの声を素直に聞くことにしましょう。

例えば、次のような応募例はどのように思われるでしょうか?

  • 選考者に作品をよりよく理解してもらうため、応募規定には記載されていなかったが解説文を同封した。
  • 書店に並んでいる書籍に倣って、原稿には本文以外に感謝の思い込めて、“まえがき”と“あとがき”をつけた。
  • 選考の参考にしてもらうため、かつて出版した自著を同封した。
  • 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、そして、公募歴(一次選考通過以上)を記載した。
  • ワープロ原稿なので、原稿用紙スタイルに従った升目入りのレイアウトで印字し、それを応募した。

さて、いかがでしょうか? これらの応募例は、どれも良かれと思ってしたことだと思います。しかし、こうした行為が、選考に際してはマイナスに働くことがあるのです。これについては、次頁で説明します。

※参考文献:『小説新人賞は、こうお獲り遊ばせ』 (奈河静香著)