ケータイ小説の書き方(4)― 書き出しのコツ

書き出しで読者の心を掴む

これは、ケータイ小説に限ったことではありませんが、作品の書き出しというのは結構重要です。ここで、文豪の作品を例に挙げるのもどうかと思いますが、まあいいでしょう。

例えば、川端康成の『雪国』の書き出しは有名ですね。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」。これは、海外の作品でも同じです。トルストイの作品『アンナ・カレーニナ』では、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである(中村融訳)」となっていますが、これも有名です。

小説以外でも、書き出しが“名言”そのものになっていることは多いですね。例えば、福沢諭吉の『学問のすゝめ』です。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」という言葉は、江戸から明治へと、時代そのものの転換を象徴しています。

このように、作品の書き出しには、著者の“思い入れ”や“センス”がストレートに現れてしまいます。書き出しの部分で読者の心をグッと掴むことができれば、もう半分は成功したようなものです。

特に、ケータイ小説では、最初の1ページ目が重要です。一昔前であれば、それほどケータイ小説の数も多くなかったので、とりあえず読んでもらえたのですが、今は違います。

続々と発表されるケータイ小説の中から、自分の作品を読み続けてもらうためには、最初の1ページ目から読者を釘付けにしてしまう必要があるのです。

いくら、後半盛り上がるんだといっても、そこまで、読者は待ってくれません。書き出しがつまらないと思えば、直ちに他の作品に移ってしまうのです。

そうした意味では、テレビドラマが参考になるかもしれません。テレビドラマでは、イントロだけでなく、最後まで視聴者の関心を持続させなければならないという課題があるのです。

 

書き出しのコツ

では、どんな書き出しなら、読者に興味をもってもらえるのでしょうか?

それは、、読者が「えっ、何?」と思うような書き出しを心掛けれがいいのです。例えば、次の書き出しはどう思われますか?

(1)今日もつまらない一日が始まった。
(2)夏の日差しが、バイクのミラーに輝いていた。
(3)確か、あの時も同じことを言ってたね。
(4)「なぜだ、なぜ目が見えないんだ」
(5)彼氏とは、もうそろそろ終るつもりだった。
(6)恋は一人でも出来る事、恋愛は二人でするもの

(1)は、読む方もつまらなくなってしまいます。

(2)は、風景描写になりますが、あまりインパクトはありません。一般的に、風景描写から入るのは難しいかもしれません。

(3)は、回想、あるいはポエム形式での書き出しになりますが、特に興味を惹かれるということもないでしょう。

(4)は、登場人物の感情が全面に出ています。読者も「なぜ?」と気になってしまいます。

(5)は、内藤みか氏の『LOVE*』の書き出しです。余韻を残した書き出しなので、思わず先が気になります。

(6)は、第1回Gocco文学賞最優秀賞に輝いた来栖可南さんの『手を繋ごう』の書き出しです。これは先述した格言的な書き出しで、恋愛の予感がします。

 

このように、登場人物の心の動揺や葛藤、あるいは、何らかの予感めいた書き出しから始めると、読者も感情移入しやすくなります。他に、いきなり主人公をパニックに落としいれたりするのも効果的です。

いずれにしても、自分で読んでみて、思わず「気になるなぁ」という書き出しならOKです。いろいろと試してみてください。

*参考文献:『ケータイ小説書こう』(内藤みか著)