執筆(3)― 多作と寡作

多作な人気作家と寡作なマイペース作家

プロ作家を目指しておられる方にとって、文学賞や新人賞への入選は、第一段階の目標と言えるでしょう。

しかしながら、紆余曲折を経て、やっと念願の文学賞や新人賞に入選し、編集者にも認められ、「いよいよ作家デビューだ」と喜んでいられるのも束の間で、作家として生き抜くには、これからが本番となります。

年間に作家デビューする方がどのくらいいるか、データがないので正確な数字は示せませんが、そうした方々が作家として生き残れる割合は、通常、数%ぐらいだろうと言われています。

当然、そうした方々は作家デビューするくらいですから、皆さんそれなりに才能も素質もあるはずですが、それでも大部分の方が脱落していくわけです。

なぜ、そのようなことになるのでしょうか? 実は、そうした背景に、本頁のテーマでもある、多作(数多くの作品を作る)と寡作(少ししか作品を作らない)の問題が潜んでいるのです。

もちろん、他に何か職業を持っていて、余暇を利用して執筆しているという方に関しては、寡作であっても何ら問題はありません。ところが、本業として作家を目指すには、最低限、執筆活動を通して生活費を稼ぐ必要があります。

そうすると、これはかなり大変なことになります。実際、原稿料や本の印税だけで生活するには、かなりハードな執筆生活が待ち受けています。もちろん、作品が出版化され、売れるという前提の話ですが・・・。

 

印税の目安は?

定価1,500円の本を書いて出版すると、一体、どれくらいの収入になるのでしょうか? 印税は、一般的には次のように計算できます。

 定価 × 印税率 × 発行部数 = 収入

印税率に関しては、通常、定価の10%というのが一般的ですが、最近は出版業界も厳しく、8%や6%ということもあります。特に新人に対しては厳しい条件が呈示されます。

さらに、発行部数も、売れるかどうがわからない間は、リスクを抑えるため、初版が数千冊というケースが多いようです。

そうすると、先ほどの定価1,500円の本を例に計算してみると、次のようになります。

 1,500円 × 0.08(8%) × 5000部 = 60万円

この数字を見て、多いと思うでしょうか? それとも、少ないと思うでしょうか? これだと、節約しても、精々2~3か月分の生活費というところでしょう。

つまり、この計算によると、重版を考えなければ、少なくとも年間に4~6冊以上の本を書き、それを必ず出版しない限り、作家オンリーの生活は成り立たないことになります。

そうした作品のなかから、運良くベストセラーがでれば、そこから軌道に乗せることもできますが、それまで、生活が持つかどうかという問題です。

こうして見ると、年に1冊しか書かない寡作作家が専業作家として生き残るには、必ず、その作品をベストセラーにするしかないことになります。

なかなか厳しい現実が見えてくると思います。しかしながら、こうした現実を知った上で、多作を心掛けていると、成功する可能性も高くなってきます。

人気作家というのは、大抵、多作な作家でもあります。そうした作家の手になる作品のすべてが秀作というわけではありません。しかし、多作であれば、その中から人気作品が生まれる可能性も高くなるというわけです。

何れにしても、“作家になれば、楽して印税生活ができる”と甘く考えていると痛い目に会いそうです。心の奥底から、「書きたい」という強い欲求が沸々と湧き上がってくるような方でなければ、そうした慎ましい執筆生活には耐えられないかもしれません。

※参考文献:『マンガを読んで小説家になろう!』(大内明日香、若桜木虔著)