著作権(2)― 引用のコツ

執筆に関する著作権問題

実際に執筆するにあたって、著作権問題を引き起こす可能性があるのはどういった部分でしょうか?

まず一つが、翻案の部分です。これは、他人の作品のストーリーなどを拝借して自分の作品のストーリーに組み込んでしまうことです。ただ、こうしたケースでは著作者のオリジナルな部分と模倣との部分が明確でないため、裁判でも解釈が難しいようです。

福井健策氏は、その著『著作権とは何か』の中でシェークスピアを例に、その問題点を指摘されていますので、少し見ておきましょう。

「ウエスト・サイド物語」という有名なミュージカルがありますが、この作品はシェークスピアの「ロミオとジュリエット」がもとになっています。

「ウエスト・サイド物語」が1957年にアメリカで初演されたミュージカルであるのに対し、「ロミオとジュリエット」は1595年頃に初演されたシェークスピアの戯曲です。

したがって、実に300年以上の開きがあるので著作権上の問題があるわけではありません。しかし、もし著作権期間内であればどうであったかというと、難しい問題があったことは間違いないだろうというわけです。

ところが、このシェークスピアの「ロミオとジュリエット」にも原作が存在したのです。それは、アーサー・ブルックによる「ロミアスとジュリエットの悲劇物語」という作品です。

現代、アーサー・ブルックという作家の名前を知っている人はほとんどいないでしょう。しかし、シェークスピアといえば小学生でもその名を知っています。

つまり、その悲劇のストーリーに命を吹き込んだのがシェークスピアという偉大な作家であったのです。このように考えると、必ずしも、翻案が完全にダメだとも言い切れなくなってしまうでしょう。

 

引用のコツ

一方、他人の作品の一部をそのまま自分の著作物に掲載するというケースもあります。もちろん、誰にも分からないだろうと思って自分の作品の一部として使ってしまうと、明らかに著作権侵害にあたります。

しかし、評論のような作品であれば当然引用する必要性が生じるでしょう。こういったケースでは、著作権上どのように対処すればよいのでしょうか? そこで引用という手法を使うわけです。

実は、著作権法には引用に関する規定がなされています。著作権法第三十二条には、次のように記されています。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

 

また、最高裁が示した引用の条件として、①引用部分が明確に分かること、②本文と引用部分の主従関係が認められること、という基準があります。

したがって、実際に引用する場合、引用部分を本文より一段下げたりして明確にし、本文中あるいは引用部分の末尾に出典を記しておくということが一般的に行われています。

また、そのまま引用しているわけではないケースでは、本文末に、参考文献として文献名、出版社名を明記することによって感謝の意を表すということもなされています。

結局、著作権といっても人間対人間のエチケットの問題であるとも言えるでしょう。自分がされたくないことは、他人に対してもすべきではないということなのです。

※参考文献:『著作権とは何か』(福井健策著)