下読み(2)― シンプル・イズ・ベスト!

解説文、まえがき、自著同封について

では、先ほどの五つの例について順に見てゆきましょう。

  • 選考者に作品をよりよく理解してもらうため、応募規定には記載されていなかったが解説文を同封した。

ここでの問題点は、本当に解説文を付けなければ理解できない作品なのかということです。もしそうなら、そのこと自体に問題があります。不特定多数の読者に、いちいち解説をつけて読んでもらうわけにもいきません。

一方、あえて解説文を付けなくても十分理解できる内容であるなら、ことさら余計なことをする必要はないでしょう。

従って、誰が読んでもわかる作品を書くことに注力し、余計な解説文は付けないほうが無難です。故事が示すように、締切までに余裕があるからといって、応募規定にないような蛇足は付けないほうが良いでしょう。

  • 書店に並んでいる書籍に倣って、原稿には本文以外に、感謝の思い込めた“まえがき”と“あとがき”をつけた。

ここでの問題は、出版関係者からみれば明白なのですが、まだ本を出版したことがない方にとっては案外分からない事だと思います。

というのも、こうした“まえがき”や“あとがき”というのは、書籍化に際して書き添える文章だからです。従って、応募原稿にこれをつけていると、著者は立場を弁えていない、と受け止められてしまうのです。

  • 選考の参考にしてもらうため、かつて出版した自著を同封した。

公募文学賞というのは、あくまでその作品に対して与えらる評価ですので、こうした著書や雑誌の原稿、果ては新聞投稿欄の切り抜き等を送っても、決してプラス評価されることは無いでしょう。

余程の自信作であったとしても、営業ならともかく公募というケースでは控えておくほうが無難なのです。これも、蛇足の部類に入ってしまいます。

 

公募歴、マス目入り印字について

  • 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、そして、公募歴(一次選考通過以上)を記載した。

住所から電話番号までは大抵の応募規定で明記されている内容ですので記載する必要があります。しかし、問題は公募歴の部分です。

上の例では、一次選考以上を通過した公募に関して記載したことになっていますが、応募規定に明記されていない限り、あえて公募歴は記載しないほうが良いでしょう。

というのも、メジャーな文学賞の最終選考に残ったというケースならまだしも、一次選考通過ぐらいでは逆にマイナス評価されてしまうというのが厳しい現実なのです。

  • ワープロ原稿なので、原稿用紙スタイルに従った升目入りのレイアウトで印字し、それを応募した。

これも、原稿用紙という形にとらわれてしまった結果でしょう。原稿用紙の升目は手書きをサポートするためのスタイルなのです。従って、字数も字の大きさも一定に調節できるワープロでは升目は必要ないのです。逆に、升目を入れることによって非常に読み難くなってしまいます。

以上、五つの例をもとに述べてきましたが、すべてに共通することは、なるべく余計なことはせず、直球勝負したほうが良いということです。結局、シンプル・イズ・ベストということが結論になります。

※参考文献:『小説新人賞は、こうお獲り遊ばせ』 (奈河静香著)