『原稿用紙10枚を書く力』の書評

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『原稿用紙10枚を書く力』(齋藤孝著)

タイトル
原稿用紙10枚を書く力

ここでは、齋藤孝氏によります『原稿用紙10枚を書く力』のご紹介をします。齋藤氏については、ご存知の方も多いかもしれません。

現在(2016年)、明治大学の文学部教授をされており、専攻は教育学・身体論・コミュニケーション論で、「齋藤メソッド」という独自の教育論を提唱されています。

本書では、「原稿用紙10枚を書く力」と題してあるように、まず原稿用紙10枚書く力を身につけましょう、という提案がなされています。

なぜ10枚なのか、ということですが、例えば3~5枚程度であれば特にトレーニングをしなくても書けますが、10枚となるとメモやレジュメを用いて文章全体の構築をしなくてはならないから、というわけです。

「十枚書ける人は、長い文章を書く基礎的な力をつかみ、本を書ける可能性を手に入れたことになる」(単行本版p15)

さらに、文章上達の近道は“とにかく、書く量をこなすことだ”という考え方のもとに、一日に書くノルマを決めて、その数をこなすことが大事だと強調されています。

 

本書の章立ては以下の通りです。

プロローグ:書くことはスポーツだ
第1章:書くことは考える力を鍛える
第2章:「書く力」とは構築力である
第3章:「文体」を身につける

 

『原稿用紙10枚を書く力』の概要

ここでは、プロット術に関係する第2章を中心にご紹介します。

著者は、文章を構築するためには“3の法則”が重要であると、繰り返し述べています。例えば、何か文章を書こうとするときに、まず、ネタになりそうな材料を片っ端から拾い出します。そして、その中から自分が書きたいと思うキーコンセプトを三つ決めます。

ここで、著者が考えているキーコンセプトというのは、テーマに方向性を与えたものだと言えるでしょう。例えば、環境問題というテーマを取り上げるとすると、「環境問題を解決するにはまず、先進国と開発途上国の経済格差を解決しなくてはならない」や、「アメリカのわがままが環境問題解決への大きな障害だ」といった、より具体的な内容がキーコンセプトにあたると言うわけです。

この際、注意すべき点があります。それは、三つのキーコンセプトとして、互いに独立し、性質の異なったものを選ぶということです。というのも、似通ったキーコンセプトを選んでしまうと、そこから生まれる文章に広がりが生まれないからです。

ところで、なぜ三つのキーコンセプトなのでしょうか? これについて著者は次のように述べています。

「キーコンセプトがなぜ二つではダメかといえば、そのつながり方が直線になってしまい、だれが考えてもキーコンセプトの論理のつながりが同じようなものになってしまう。そこでは書き手のオリジナリティが出てこないからだ。三つをつなげることによって、複雑さが生じて、自ずとオリジナリティが出てくる」(単行本版p107)

つまり、書き手のオリジナリティを出すために必要な数が三つであったというわけです。それぞれのキーコンセプトにオリジナリティがなくても、それらをつなげるとオリジナリティが生まれるというわけです。

次に、それぞれのキーコンセプトに対して、レジュメを作ります。レジュメと言うのは、文章の設計図にあたるもので、文章の構成や項目をまとめたもののことです。

その際、項目ごとに、100字以内でいいから何について書く項目なのかを記入しておくと、後で非常に役立つとアドバイスされています。

このように、短編ならともかく、長編を書こうとするなら必ず事前に構想を練るべきであることが繰り返し述べられています。これは、論文に限ったことではなく、小説にも当てはまることです。

 

最後に、文体についての著者の考え方を少し紹介しておきましょう。

素晴らしい小説やエッセイには生命力がありますが、この生命力は文体から生まれるのだといいます。役者で譬えると、演技力に相当するのが文章の構築力で、役者の存在感に相当するのが文体だというわけです。

そして、その文体は書き手の立ち位置で決まると言います。つまり、自分がどういう立場に立って書いているかによって、文体がまったく変わってしまうということです。読者との距離感や自分自身との距離感、世界との距離感がそのまま文章に現れ、それが書き手の魅力や存在感につながるというわけです。

あとは、自分独自のスタイルをいかに確立するかという問題になってきます。

 

以上、簡単に本書の内容をご紹介してきました。本文中には、幾分、まとまり切れていない部分も見受けられますが、構成力を磨きたいという方にとっては参考となるでしょう。